木曽緩和ケア研修会報告

大桑はなの木薬局の山瀬です。

2月26日〜27日にかけて、緩和ケア研修会に参加しました。以下、講習会の要旨を報告します。

医師、看護師、薬剤師と様々な職種から研修会の参加がありました。講師やスタッフとして、信州大学附属病院や岡谷、飯田、伊那方面病院の緩和ケアチームの皆さん、木曽病院の緩和ケアチームの方が参加されました。

1.緩和ケアについて

一般に、まだ緩和ケア=ターミナルケアと、とらわれがちです。従来のがん医療は、抗がん治療がまず行われ、その後緩和ケアに移行するというかたちでした。

WHOにおける緩和ケアの定義では、緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛み、その他の身体的、心理社会的、スピリチュアルな問題を早期に同定し適切に評価し対応することを通して、苦痛を予防し緩和することにより、患者と家族のQuality of lifeを改善する取り組みとあります。QOLの向上は、結果として治療の予後に良い影響をもたらすことがわかっています。今後の包括的がん医療モデルは、抗がん治療が始まると同時に早期から緩和ケアを必要に応じ有機的に行っていくこととあります。

質問1:あなたがもしがんになったとしたら、大切にしたいと思うことは何ですか?

質問2:あなたがもしがんになったとしたら、気がかりなことは何ですか?

望ましい死を迎えるために、人によって重要だと考えることは異なります。また、がん患者の苦痛は精神的社会的苦痛などもあり多面的です。がん患者の苦痛に対しては全人的に捉えなければなりません。全人的苦痛(Total pain)といいます。これらに対し、医師のみが対処することは不可能であり、看護師・薬剤師・MSWなどチームとしてのアプローチが重要となります。

質問3:あなたが、治る見込みがなく死期が迫っている(余命が半年以下)と告げられた場合 1.あなたはどこで療養したいですか? 2.最後をどこで迎えたいですか?

ひとそれぞれに希望する療養場所は異なり、時とともに変化します。緩和ケアは「病気の時期」「治療の場所」を問わず提供され、「苦痛(つらさ)」に焦点があてられます。

「何を大切にしたいか」は、患者・家族によって異なり、いつでも、どこでも、切れ目のない質の高い緩和ケアを受けられることが大切です。

2.がん疼痛の評価と治療

がん患者の痛みの評価、薬物療法、オピオイドの使い方・注意点、非薬物療法・ケア、薬物以外の対処方法についての学習。比較的薬剤師の専門とするところの講義内容でした。

3.消化器症状(嘔気・嘔吐)

がん治療において、嘔気・嘔吐の症状はよく見られる場面です。原因として薬剤師がまず想像するのはオピオイドによる副作用ですが、原因は病状の進行や他の原因も考えられます。原因を的確に検索し評価することで嘔気・嘔吐の治療を行うことを学習しました。また治療以外でも、嘔気・嘔吐のケアが重要で、患者さんの環境にも気を配ること(臭気・食事・香水 暖かい食物はにおいが強くなる、安楽な体位をとる、食事の工夫、気分転換等)を学習しました。治療抵抗性の嘔気・嘔吐に対しその他の治療法として、船酔い防止の目的で販売されている「シーバンド」という商品が有効であったという話題も興味深かったです。

4.がん疼痛事例検討

グループワーク形式で、がん疼痛の症例の検討を行い、疼痛の評価とそれに基づく適切なマネジメントと、がん患者のtotal painに配慮し対処することを学習しました。医師・看護師・薬剤師がうまくグループ構成できたので、即席の緩和ケアチームの形態がとれました。実際の緩和ケアチームはこのような検討がされているのだろうなという雰囲気が体験できました。

5.呼吸困難について

呼吸困難は、がん患者において高頻度に認められQOLを下げる重要な症状です。呼吸困難とは「呼吸時の不快な感覚」という患者の主観的な症状であるということです。薬物療法のみならず、環境調整(患者の楽な姿勢、においなど不快感に対処、不安への対応等)のケアも症状緩和に重要であることを学習しました。

6.ロールプレイ(オピオイドの導入をスムーズに行う)

オピオイドの導入については、既に病院で説明を受けてくるので、一からの説明は薬局ではまず経験がありません。しかし、副作用の適切な説明や患者本人や家族の不安などに対応する機会は日常業務ではよく経験することです。患者や家族の表情などにも注意し、丁寧な説明や言語以外のコミュニケーションにも心掛けることを再認識しました。

7.精神症状(気持ちのつらさ)について

がん治療中において、気持ちのつらさは患者のQOLの低下をまねいたり、死にたいという思いが強まったり(最悪の場合自殺につながる)、治療意欲を奪う等様々な悪影響をもたらします。気持ちのつらさはどうやって評価するか、気持ちのつらさに対するケアは何を行うか、薬物療法には何を用いるかを学習しました。ケアとして、まずはじっと患者の言葉に耳を傾けることが大切です。場合によっては専門家(精神科医)へのコンサルテーションを行います。

8.精神症状(せん妄)

せん妄は、終末期がん患者の30〜40%に合併し、死亡直前においては患者の90%がせん妄の状態にある誰もが経験する精神症状です。せん妄も、様々な悪影響をもたらします(危険行動による事故・自殺、家族とのコミュニケーションの妨げ、家族の動揺、医療スタッフの疲弊等)。原因の検索、治療、家族への適切な説明などを学習しました。

9.がん医療におけるコミュニケーション(がん医療におけるコミュニケーションについて)

悪い知らせを伝えるというテーマでコミュニケーション技術について学習しました。特にがんにおいて悪い知らせを使える際は、患者(家族)のみならず伝える側(医師)のストレスも相当なものということがわかりました。日常業務では直面しないケースですが、共感、同意、傾聴というコミュニケーションに重要なポイントを再認識しました。

10.地域連携と治療・療養の場の選択(グループディスカッション)

緩和ケアの地域連携の問題点、解決策を検討しました。一番の問題点となるのは、やはりマンパワーの不足のようです。個人レベルでも、まだ緩和ケアについて知識や情報が不十分であることも課題でした。

感想

今回の研修会は、医師・看護師・薬剤師と違う職種のメンバーが同じ講習を受ける形で、普段の仕事の中で、特に保険薬局に勤務する薬剤師は、医師や看護師と同じテーブルで議論を交わす機会は少ないので、大変貴重な体験ができました。ロールプレイのセッションでは、医師や看護師の患者に対しての対応や言葉使いなどみることができ、大変参考になりました。薬剤師は薬の説明や副作用の説明に集中してしまいがちです。ただ話を聞いてあげるだけで、楽になる患者さんもいます。まずは、患者さんの顔をみて話を聞くことを心がけたいものです。

2011.3.19